一般財団法人日本アントレプレナー学会

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What Is an Entrepreneur?

アントレプレナーとは、
誰のことか

私たちが「日本アントレプレナー学会」と名乗る理由と、その言葉が「仕組み化」とひとつながりである理由をお話しします。

序

なぜ、この名前なのか

私たちは「一般財団法人日本アントレプレナー学会」と名乗っています。

この名前を聞くと、これから起業する人や、独立したばかりの人のための団体だと思われることがよくあります。

日本語で「起業家」と言えば、たしかにそういう人のことです。けれども、私たちがこの言葉に込めている意味は、それとは違います。

先に、私たちの定義を書いておきます。

アントレプレナーとは、起業した人のことではない。「何が欠けているのか」を問い、それを埋めるビジネスそのものを発明し、自分がいなくても価値を届け続ける仕組みとして世に残す人のことである。

この文章では、この定義に至った理由と、なぜそれが「仕組み化」とひとつながりなのかを、順にお話しします。

第1章

「起業家」という言葉で抜け落ちたもの

entrepreneur には、決まった訳語がありません。辞書を引くと「起業家」「企業家」「事業家」と並びます。経済学者シュンペーターの翻訳では「企業者」という言葉が使われてきました。

なかでも今いちばん広く使われているのが「起業家」です。「業を起こす」と書くので、どうしても意味が「始める瞬間」に寄ります。会社を登記した日に起業家になり、何年かたてば起業家ではなくなる。そんな印象を持つのも無理はありません。

もとの言葉はフランス語の entreprendre という動詞で、「引き受ける」「企てる」という意味です。始めることよりも、何かを自分の仕事として引き受け、企てて、やり遂げることのほうに重心があります。

訳語の段階で、すでに大事なものが抜け落ちていた。私たちはそう考えています。

第2章

起業家の神話──始めた人の多くは、アントレプレナーではない

マイケル・E・ガーバー氏の代表作『E-Myth(はじめの一歩を踏み出そう)』の E は、entrepreneurial(起業家の)の E です。E-Myth とは「起業家の神話」のことです。

彼は、何万人もの経営者と向き合ってきた結論を、こう書いています。

会社を始める人は、私たちが思っているようなアントレプレナーではない。「起業の発作に襲われた職人」である。

腕のいい職人が、ある日「人に使われるのはもうたくさんだ」と思い立ち、独立する。そのとき職人は「その仕事ができるのだから、その仕事をする会社も作れるはずだ」と信じています。これを「命取りの仮説」と呼びました。そうやって始まった会社の多くが、まさにその理由でつまずくからです。

結果として、職人は自分のための「仕事」を作ります。会社を経営しているつもりで、実際には会社の中で働き続ける(Working IN)。気がつけば、自分が作った会社に使われています。

これはガーバー氏だけの見方ではありません。ドラッカーは、新しく店を開くだけの人と、マクドナルドのように事業のやり方そのものを新しくした人とを分けて考えました。シュンペーターも、企業者であるのは「新しい組み合わせ」を実行している間だけで、それをやめて事業をただ回すようになれば、もう企業者ではないと考えました。

ここまでをまとめると、アントレプレナーは肩書きではありませんし、会社の段階でもありません。創業何年目かも関係ありません。

さらに踏み込んで、こうも書いています。

起業家の力を鍛えるのに、ビジネスを始める必要はない。少なくとも最初は。

起業したからアントレプレナーになるのでもなく、起業しなければなれないのでもない。では、アントレプレナーとは何をする人なのでしょうか。

第3章

飲めない水を、飲める水にする人──ビジネスの発明家

ガーバー氏がよく使うたとえ話があります。

この世に飲める水が限られているとしよう。あなたは、飲めない水を飲めるようにする方法を見つけた。その方法を秘密にしておくだろうか。それとも、みんなに教えるだろうか。
もちろん、みんなに教えるだろう。

アントレプレナーとは、飲めない水を飲める水にする方法を見つける人です。この文章では、このたとえを最後まで使います。

著書『Awakening the Entrepreneur Within』では、アントレプレナーの「5つの現実」が挙げられています。その一つ目がこれです。

アントレプレナーは発明家である。発明家は「この絵に何が欠けているのか」と問いながら生き、欠けたピースを発明して絵を完成させる。

ただし、アントレプレナーがほかの発明家と違うのは、発明するものが製品ではなくビジネスそのものだという点です。顧客にも、社員にも、取引先にも「ほかとは違う」と感じさせるビジネス。それが、アントレプレナーにとっての発明品です。

二つ目の現実は「アントレプレナーは機会を買わない。機会を作り出す」です。

ここで一つ、引っかかる方がいるかもしれません。手本としてよく挙げられるレイ・クロックは、マクドナルド兄弟から権利を得た人だからです。けれども、クロックが作ったのはハンバーガー店ではありませんでした。兄弟の店には客が列をなしていましたが、それは一つの町の一つの店でした。クロックが見通したのは、そのやり方を、ごく普通の人たちの手で世界中どこでも同じように運営できる事業に作り替えることでした。彼が発明したのは「世界に複製できるビジネス」です。

発明といっても、まったく新しい技術が要るわけではありません。

ガーバー氏自身がそうでした。40代になるまで、百貨店の販売員や大工の見習いなど、職を転々としていました。あるとき知人の紹介で、シリコンバレーの会社の社長に会います。技術はあるのに、広告を出しても売上につながらずに困っていた社長でした。

彼は長くセールスの仕事をしてきたので、販売には手順があることを知っていました。最初にこう話し、次にこう進めれば、お客様の気持ちが動き、成約につながる。彼にとっては当たり前のことです。ところがその社長には、販売を手順として組み立てるという発想そのものがありませんでした。

自分にとっては当たり前のものが、相手にとっては「飲める水」だった。このとき、自分の中のアントレプレナーが目を覚ましたと語っています。そして、世界中の中小企業の経営のやり方を変えられるのではないかと考え、会社を作りました。

日本にも例があります。徳島の山あいの町では、山の木の葉に値打ちがあるとは誰も思っていませんでした。ところが都会の料亭では、その葉が料理を彩る飾りとして求められていた。そこに目をつけた人たちが「いろどり」という事業を始め、町のお年寄りが葉を集めて出荷する仕事が生まれました。

どちらも、すでに手元にあったものです。足りなかったのは、それを必要としている人のところへ届ける道筋でした。資源を、値打ちの低いところから高いところへ移す。古くから経済学者が「企業者」の仕事として説明してきたことと、同じ話です。

第4章

あなたは、何のために生まれてきたのか──自己発見の旅

ここで、少し立ち止まって考えてみてください。

あなたは、なぜ今の仕事をしているのでしょうか。

生活のためでしょうか。始めてしまったからでしょうか。ほかにできることがないからでしょうか。

ガーバー氏の問いは、いつもここに戻ってきます。何のためにこの仕事をしているのか。もっと言えば、あなたは何のために生まれてきたのか。

彼にとって、起業は会社を作る手続きではありません。自分が何に喜びを感じ、どんな音楽を奏でたいのかを見つけていく、自己発見の旅です。

新しいベンチャーの創造、すなわち、新しい生命を生み出すための旅。それは、たった一人、あなたにとってのみ、重みを持つものになる。だから、あなたが真のアントレプレナーシップに目覚めたとき、あなただけが、それを実践することができるのだ。

なぜ、あなたにとってだけなのか。「何が欠けているのか」は、その人の生き方や歩んできた道、大切にしているもの、目的によって違うからです。同じ景色を見ていても、欠けているものに気づくのはその人だけです。マクドナルドがまだ一店舗だったころ、そこに足を踏み入れた人はたくさんいました。けれども、そこに世界中へ広がる事業を見たのはクロックだけでした。

音楽が、君を見つけに来る

ガーバー氏は子どものころ、サックスの先生にこう言われたそうです。

音楽を見つけるのではない。音楽が君を見つけに来るのだ。

子どもだった彼には、意味がさっぱり分からなかったといいます。私も最初に読んだときは分かりませんでした。

「音楽」を「仕事」や「事業」に置き換えると、少し見えてきます。やりたい事業を探しに行くのではありません。毎日、自分の楽器を練習し続けている人のところに、ある日、その人にしか奏でられない音楽のほうがやってくる。

日本語の「天職」は、英語では calling(呼ばれること)と言います。世の中に困っている人がいて、その困りごとを解決できる人を、天が探して呼び出す。好きなことや得意なことを探すのではなく、呼ばれる側になる。

二宮尊徳は、自分の村を立て直すことに打ち込みました。その評判が広まり、各地の領主から次々に呼ばれるようになりました。売り込んだのではなく、呼ばれたのです。

彼自身も、40代になるまで自分の音楽を知りませんでした。百貨店の販売、大工の見習い、サックス。ばらばらに見えたそれまでの経験が、シリコンバレーの社長と出会ったその日に、一つの音楽として鳴り始めた。目を覚ますとは、そういうことです。

個人的な夢と、非個人的な夢

ガーバー氏は、夢を二つに分けています。

一つは「個人的な夢」です。家を建てたい、ハワイに住みたい、お金持ちになりたい。悪いものではありません。けれども、かなえても、また次が欲しくなります。本当の夢を持たない人は、可能性をあきらめた痛みを紛らわせるために、人生のおもちゃで忙しくするのだとまで書いています。

もう一つが「非個人的な夢」です。

それは私のことでも、あなたのことでもない。直されるのを、変えられるのを、作り直されるのを待っている何かに、ある日ふと、強烈に気づいてしまうことだ。

貧しさの中にいた人が、貧しさから抜け出す。電気のない小屋に明かりが灯る。濁っていた水が、きれいに流れる。

ここで、飲み水の話に戻ってきます。

喜びと称賛に、人生の喜びを見出す

飲める水の作り方を見つけたら、人は黙っていられません。誰かに教えたくなります。先ほどのたとえ話は、こう続きます。

教えてあげたときのみんなの喜びと、あなたへの感謝は、かつて経験したことのないものになる。人々はあなたのところに列をなし、あなた一人では対処できなくなる。

5つの現実の三つ目は、このことを言っています。

発明は伝わっていく。顧客が買って、また戻ってくるたびに、それはアントレプレナーの発明への拍手である。

彼はまた、アントレプレナーを舞台に立つ演者にたとえます。演者が客席の拍手で、演じることをいっそう好きになるように、アントレプレナーは、自分の発明を喜ぶ人の姿に、何よりの手応えを感じる。

その喜びと称賛に、自分の人生の喜びを見出す人。それがアントレプレナーです。

喜びの源が、自分の暮らしから、目の前のお客様へ、そして世の中へと移ったとき、アントレプレナーは本当に目を覚まします。私たちが「起業家精神」を「世の中に革新的な価値や違いをもたらそうとする志」と言ってきたのは、この意味です。

あなたが存在している理由

ガーバー氏は、こう問いかけます。

これを成し遂げることができるならば、何億もの人々にとってこれが間違いなく意味のあるものであるならば、これを成し遂げるために、時間と労力を投資する価値はあるだろうか。
答えがイエスならば、それがあなたが存在している理由に違いない。

そして、こうも言います。

あなたは創造するために生まれた。地球上のすべての人は創造者であり、何かを創り出す心と魂を内に秘めている。

私たちは、毎日の仕事をなんとかやり過ごすために生きているのではありません。生きるために働くのではなく、何か意味のあることを成し遂げるために生きる。それなのに多くの経営者は、高い山に登り始めることなく、ふもとの小さな丘で旅を終えてしまいます。

だから、もう一度だけ聞かせてください。

あなたの絵には、何が欠けているでしょうか。

全人生をかけてもいいと思える情熱は、何でしょうか。

あなたにしか奏でられない音楽は、何でしょうか。

創るものに意味があるから、お金が生まれます。その逆は、うまく働きません。この問いに答えが見えたとき、会社を大きくするかどうかは、もう悩む話ではなくなります。それが次の章の話です。

第5章

「小さいままでいい」への答え

5つの現実の四つ目は「アントレプレナーにとって、発明の成功は成長で測られる」です。

こう聞くと、反発を覚える方もいると思います。「会社を大きくしたいとは思っていない。自分と家族が暮らしていければ十分だ」。

飲み水のたとえ話は、その声にこう答えています。

会社を大きくしたくない、自分が生活できればよい、という人は、飲み水を作る方法を見つけて、それを自分で飲んでいるだけである。

成長は、目的ではありません。喜ばれたものが、喜んでくれる人のところへ広がっていった、その必然の結果です。だから、成長を追いかけるのではなく、成長してしまうほどのものを見つけることのほうが先にあります。

そう考えると、「小さいままでいい」という人は、まだそれだけのものを発見していない、ということになります。

もう一つ、こんな話もあります。

「すべての主要都市に事務所を作れる」と言うと、「すべての都市に事務所を作りたいとは思っていない」と返ってくる。私はこう答える。「作りたいと思っていないのは、作れると信じていないからだ」。

限界は外ではなく、自分の会社をどこまで思い描けるかの側にある、ということです。

ただし、これは規模の大小の話ではありません。「一人の会社か、3000人の会社かは重要ではない。世界に通用するやり方で取り組むと決めることが重要だ」とも言っています。問われているのは今の大きさではなく、広げられるように作ってあるかどうかです。

そして、三つ目の現実の最後には、こう書かれています。

発明が意味のあるものであるほど、成功を続けるのは易しい。

第6章

誰の中にあるのか──生まれつきではない

5つの現実の五つ目は、すべての人に向けられています。

誰もがアントレプレナーになる力を持っている。アントレプレナーは作られるのであって、生まれつきではない。必要なのは、白紙と初心、そして始めようという関心だけだ。

その力は、ふだんは眠っています。毎日同じ仕事を同じように繰り返しているうちは、目を覚ましません。第4章で見たように、目を覚ますのは、自分の音楽に呼ばれたときです。

私たちは、目を覚ますきっかけを三つに分けて考えています。

  • 価値の再発見 自分にとって当たり前だった技術や経験に、別の場所では大きな値打ちがあると気づくこと(販売の手順、徳島の葉)
  • ニーズとの出会い 世の中の困りごとと、自分が持っているものが結びつくこと
  • 使命感の発見 自分がそれをやる意味と、世の中への役立ちが重なること

そしてこれは、社長一人の話ではありません。社員一人ひとりが自分の持ち場で「何が欠けているのか」を問い、よりよいやり方を作り出している会社。私たちはそれを「起業家的な会社」と呼んでいます。

第7章

一人の中の、4つの人格

では、アントレプレナーの中では何が起きているのか。ガーバー氏は、アントレプレナーの中に4つの人格があると説明しています。

  • ドリーマー 何を作るのかを夢に描く人
  • シンカー それをどうやって形にするかを考える人
  • ストーリーテラー その夢を物語として語り、人を巻き込む人
  • リーダー 夢を前へ進める責任を引き受け、やり遂げる人

『E-Myth』で知られる職人・マネジャー・起業家の三つの人格のうち、「起業家の人格は具体的に何をするのか」に答えたのが、この4つです。

4つすべてを一人で持っている必要はありません。ガーバー氏はドリーマーで、シンカーの役は共同経営者のトム・トラヴィサーノ氏が担いました。今、私たちがお伝えしている仕組み化の方法を体系にまとめたのは、このシンカーの側です。日本にも、夢を語る本田宗一郎氏と、経営を引き受けた藤沢武夫氏という組み合わせがありました。

そして、このシンカーの「どうやって」が、次の章の仕組み化につながっていきます。

第8章

世界中に広める手段としての仕組み化

飲める水の作り方を見つけた人のところには、人が列をなします。けれども、一人では配りきれません。列に並んだ人たちに届けるために、仕組み化が出てきます。

仕組み化は、決まったやり方を作ることです。発明とは正反対に見えるかもしれません。けれども私たちは、この二つは同じ一つの仕事だと考えています。理由を順にお話しします。

一、発明を完成させるのが、仕組みである

アントレプレナーの発明品はビジネスです。そして、ビジネスという発明品は、誰がやっても同じ結果が出るようになって初めて「製品」として完成します。

マクドナルド兄弟は、自分たちの店の中で働いていました。クロックは、その店の行く末を見通しました。ガーバー氏は、ごく普通の人たちの手で世界中で同じように運営されていることこそが注目すべき点だと言います。

彼自身の会社もそうでした。彼がコンサルティングを自分でやったのは最初の2年ほどで、そのあいだにやり方を固め、人を雇い、コーチを育てて、自分はその事業を広める側に回りました。経験の長い高給のコンサルタントを雇わなくても、普通の人が仕組みに沿えば、お客様に成果を出せる。そういうモデルを作ったのです。私が彼を「コンサルタント」ではなく「起業家」と紹介するのは、このためです。

二、発明は一度で終わらない

仕組みは、やり方を固めてしまうためのものではありません。彼は、卓越したやり方は自然に生まれるのではなく作り出すものだとして、「イノベーション(改善)」「数値化(結果を測る)」「標準化(よかったやり方を定着させる)」を絶え間なく繰り返すことを説きました。

標準化されたやり方は、次の改善の出発点になります。仕組みは、発明を続けるための土台です。

三、仕組みは人を自由にする

ガーバー氏は若いころ、サックスの先生にも、百貨店の販売の先輩にも、大工の親方にも、「とにかく言われたとおりにやりなさい」と教えられました。そのとおりにやった結果、サックスは上達し、売れるようになり、家も建てられるようになった。

だから、彼の言う仕組みは、社長の思いどおりに人を動かすためのものではありません。そのとおりにやれば人が成長できる道筋です。決まった手順に任せられる仕事を人から引き取り、人が新しい工夫や、お客様や仲間との関わりに力を注げるようにする。仕組みは、人を縛るものではなく、自由にするものです。

四、会社は学校である

ガーバー氏の本に、マクドナルドで働き始めた若者の話が出てきます。その若者は、店を「職場」ではなく「学校」として見ている、というのです。決まったやり方に自分を合わせ、基準を満たし続けることが、そのまま成長になる。そういう場所として会社を作ることも、仕組み化の役割です。

五、仕組みだけでは足りない

ガーバー氏自身も、のちにこう気づいたといいます。仕組み化によって自由になり、成功したお客様がたくさんいた。けれども、何かが欠けていた。

彼の考えの核には、「魂の情熱」と「知性の情熱」を一つにするという考えがあります。知性の情熱は仕組み化につながるもの、魂の情熱は、自分がなぜそれをやるのかという目的や価値観です。

私が長くご一緒しているお客様にも、同じことが起きました。最初に自分の目的を考え、そのあと何年か仕組みづくりに取り組むと、仕組みが整ってくる。すると、もう一度「自分は何のためにこれをやるのか」を考え直す時期が来るのです。

仕組みが整うほど、次の問いが立ち上がってきます。

問う → 発明する → 仕組みにする → 手放す → また問う。

アントレプレナーの仕事は、この循環そのものです。

第9章

自分がいなくなったあとに

人の一生には限りがあります。けれども、見つけた飲み水の作り方は、仕組みにしておけば、自分がいなくなったあとも人に届き続けます。

ガーバー氏は、ビジネスは一つの生き物であり、それ自体として命を持ち、目的を持つようになると言います。そして、ビジネスを自分から独立したものとして見るのが、起業家の見方だと。ビジネスが独立していれば、あなたが明日いなくなっても、ビジネスは続いていく。

会社は、創業者の子どものようなものです。子どもは親のDNAを受け継ぎながら、やがて自分の生き方を見つけていきます。小さいうちに親が思いを注がなければ育ちませんし、大きくなっても親が手放さなければ、自分の足で立てません。

自分がいなくても価値を届け続ける仕組みとして、世に残す。定義の最後の部分は、このことです。

結

日本のアントレプレナーと、私たちの立場

本田宗一郎氏は「ドリーム号」というバイクを作りました。その裏には、戦後に夢を失った日本人に夢を届けたいという思いがあったと言われています。本田氏も、ソニーを作った井深大氏も、ものを作っただけでなく、それを届け続ける会社を作りました。

アントレプレナーは、新しく会社を始めた人だけのものではありません。親から会社を継いだ方、何十年も同じ商売を続けてきた方も同じです。ガーバー氏は「何十年と会社を経営していても、いつでも再創造できる」と言います。今ある会社の中で「何が欠けているのか」を問い直せば、そこからまた発明が始まります。

あらためて、私たちの定義です。

アントレプレナーとは、起業した人のことではない。「何が欠けているのか」を問い、それを埋めるビジネスそのものを発明し、自分がいなくても価値を届け続ける仕組みとして世に残す人のことである。

日本アントレプレナー学会が支援しているのは、この意味でのアントレプレナーです。見つけた飲み水を、自分一人で飲むのではなく、世界中に届けようとする人。仕組み化は、そのための手段の一つです。

決まった仕事の多くをAIに任せられるようになった今、人に残る仕事は、ますます「何が欠けているのか」を問うことになっていくはずです。その問いを持つ人を、私たちはこれからも支えていきます。

あなたは、何のために、その仕事をしているのでしょうか。

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